取って代わるもの
2008年  8月
指圧師 木 村  浩


 少し前のこと。洗濯機が壊れてしまい、銭湯のコインランドリーまで出かけていき

洗濯物を洗う生活が二週間ほど続いた その不便なこと。

やがて新しい洗濯機が我が家にやってきた



カデンのシアワセ

新しい家電は、家庭にシアワセの気分を運ぶ

カミサンもしばらくの間、ウキウキ洗濯機を回す

それでもそのうち、シアワセ効果は薄れ、やっぱり洗濯は面倒仕事

それでもやっぱり、あたらしいカデンは家庭にシアワセ気分を運ぶ

家庭にシアワセなシゲキをちょっとの間もたらす


 子供の頃「新種のシアワセ」は、絶え間なく家庭にやってきた

僕はその頃の標準的な、幸せな家庭に育ったのだろう




子供の頃の思い出

手押しポンプで汲み上げた水
薪を割って沸かした風呂
大きな氷で冷やす木製の冷蔵庫
洗濯をする母親のタライと洗濯板
大きな真空管のラジオで聞いた美空ひばり
呼び出しをしてもらった隣の電話
サンマを焼いた七輪の煙
ボウルを持って買いに行った豆腐屋さん
誕生日だけ食べたケーキ
紙芝居のおじさんと黄金バット
ロバのパン屋さん
親父のたばこの煙
親父の帽子の中のアイスクリーム
縁側のせんこう花火
夕方のベーゴマの火花
メンコの束
駄菓子屋さんで食べたお好み焼き
空き地の三角ベースと夕焼け
ぐるぐる回したフラフープ
初めて飲んだコーラの奇妙な味
眠かった夏休みのラジオ体操
白くてびっくりした蛍光灯の灯り
アイロンのかっこいい流線型
洗濯機の手回し式のローラー
扇風機の羽でふるえる「あ”〜〜〜〜」
冷蔵庫の中の明るい光
緊張した初めての電話の着信音
ブラウン管の前に大事にかけた布
みんなで見た力道山の空手チョップ
みんなで見た大晦日の紅白歌合戦
みんなで見た東京オリンピック

テレビの中の浪越徳治郎さんの笑顔(特別ゲスト)




取って代わるもの

かつて家電は次々と家庭にやってきた

あたらしい家電は家庭に「シアワセの気分」を運んできた

その刺激が薄れるまもなく、次の刺激はやってきた

両親は働く意味を実感していたに違いない、一生懸命働いた

アルバイトをするようになってカメラやオートバイを手に入れた

モノを次から次へと手にする喜びに僕たちはひたっていた

なんてノーテンキな時代

しかし間違いなく、生きていくことの喜びと希望を感じていたのではないか

その喜びと希望は確かにあったのではないか

「シンプルに生きていく」ことができた時代だったのではないか



 今、僕らは新しいモノにはすぐに飽きて、幸せ感はすぐに薄まってしまう

カデンに取って代わるものはなんだろうか?

                              2008年 8月



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