身体なしに人生はない /映画「レスラー」 映画『レスラー』(The Wrestler)「2008年アメリカ」を観た。 ヴェネツィア映画祭金獅子賞、ゴールデングローブ主演男優賞受賞。 監督:ダーレン・アロノフスキー 主演:ミッキー・ローク 若い頃、プロレスというと真剣勝負でない格闘技というイメージを持っていたが、自分 の青春に影響を与えた内の一人で、すでに亡くなった友人(バンド仲間でありプロレスの リングアナウンサーでもあった)から、それがどんなものなのかを教えてもらった。 格闘技は相手の攻撃をかわすのが当たり前のことだが、プロレスの場合は相手の技、攻撃 を受け止めてどれだけ耐えられるのかを示すことが美学。その美学を理解できるものだけ がプロレスに熱狂する。「耐えて生きる』のがプロレスなのだと。 この映画は文字通り、身体(命)をかけてプロレスに人生を捧げた男の物語(思えば友人も その内の一人だった)。 当たり前のことだが、『身体なしに人生はない』。この映画からそのような感想を強く持 つのは自分だけかもしれないけれども、切なくて胸が痛くなる映画だった。 ■あらすじ かつてのスターレスラーであったランディはステロイドとコカインでボロボロになった 肉体を引きずりながら現役を続けるが、ツケが回りロッカールームで心臓発作を起こす。 意識不明のまま手術をして一命を取りとめるが、医者から「生きているのが奇跡、プロレ スは自殺行為」と宣告される。構わずトレーニングをするのだが、激痛に襲われて引退を 決意する。 生きていくために、かつてのスターレスラーであることのプライドを押し殺してスーパー の総菜売り場で働くが、自分らしくない場所で生きることに心が折れる。 拠り所を求めて、これまで家族を捨ててレスラー人生を送ってきたことを後悔し、娘のス テファニーとの修復を図ろうとするのだが拒絶される。想いを寄せるストリップダンサー のキャシディーともすれ違ってしまう。 とどのつまり、自分はレスラーとして生きる道の他はないと知る。 死を覚悟してリングに上がろうとするランディにキャシディーは「あなたには私がいる、 だからリングに上がらないで」と言うのだが、「俺にはリングの上よりも、外の世界の方 が痛いんだ」と言い残して、死ぬことを覚悟で自分の生きる場所であるリングに上が る・・・ ■身体なしに人生はない 元気に生きている時には、体と人生が一体である事をそれほど意識しない。当たり前の ように体が動いているうちはその事に感謝したりしない。(だから『人は元気に生きてい るうちは知らず知らずのうちに傲慢になる』が持論。もちろん自分自身もそう、健康でい いる時にはイイ気になって生きている自分を感じる)。 スポーツマンや肉体労働者ならともかく、日々をデスクワークで過ごすような仕事であれ ば、ことに体の存在を特別に意識しないで毎日を送る。 けれども、病気になり、歳を重ねていく程に衰えを知り、体の有り難さを思い知る。 映画の主人公であるランディは、身体と人生が掛け値なしにイコールで生きた。そこまで ではないにしても、どんな人生であろうが体なしに人生はない。だからこそ、病気や身体 の衰えをキッカケにして、人は人生を振り返り見つめなおす。 そうして、自分自身の身体と同時に、自分の大切な人々のそれも大事なものだと思い知る。 そう、身体なしに人生はない。 台風去り、青い空、白い雲 (池袋) 身体(いのち)を粗末にする戦争ほどいけないものはないのだと。 2018年 9月