失楽園(PARADISE LOST) 〜人間が神になって何が悪い!〜 これまで何回かツイッターでも触れたけれども、 『失楽園』 ジョン・ミルトン 作(1667 ) 平井正穂 訳 上下巻全2冊 岩波文庫 を読んでいる。 Wikipedia によると、 失楽園(しつらくえん) 旧約聖書・創世記第3章の挿話。また、この挿話をベースにしたジョン・ミルトンの 叙事詩。 とある。 岩波文庫では、1981年に初版されて2017年に56刷までされているので、時々行く北朝霞の BOOK OFF にあるのではと予想して、親切な店員さんに探してもらったのだが、あいにく 無かった。それで街の新刊本の本屋さんに注文して手に入れた。 上・下巻のうち、上巻を読み終えたところ。聖書についての教養がなければ細部の理解が 確たるものにならない(巻末に訳注が充実している)が、それを差し引いても面白すぎる ほど面白い! ■ 人間の、もしくは人間の作る物語の基本的要素がここに。 聖書には触れたことはない。 アダムとイブと禁断の木の実にまつわる程度の話なら知っ ているが、ミルトンの解釈とはいえ聖書の中にこんな物語が描かれているとは思わなかっ た。 聖書が『善』を語るのは分かるような気がするが、人間の内にある『悪(堕落)』とは何 か?どのようにして生じたのか?について語られているとは・・・ もっとも、『善・悪 』を取り扱うのが宗教というものかもしれない。 さて、上巻の前半での印象深い部分は2度ツイートしたが、なんといっても上巻後半では、 サタンがアダムとイブに知識への欲望を心に植え付けようと決意しイブを誘惑するくだり はハイライト! ■ 人間が神になってなにが悪い! 神の偉大さを知りつつ、神への服従よりも自由を求めて反逆したサタンは、全能の力を持 ち給うその神によって地獄に落とされるが復活する。そして自分を地獄に堕としたその神 への復讐として、神が新しく創造したという人間を陥れる(堕落させる)ことを画策し、 人間界の位置を探索する旅に出る。 そして、ついにエデンの園でアダムとイブを見つけ、神によって彼等がその果実を食べる ことを禁じられているという『知恵の樹』を発見する。 『知恵の樹』を発見したサタンはそれが禁じられていることを疑問に思う。 「 それにしても知識が禁じられているとは? そんな奇怪な、無法なことがありえよう か? 何故、知るということが罪であり、死であるのか? 彼ら(アダムとイブ、つまり人 間のことね)が罪に堕ちないのは、ただ無知のおかげだというのか? 知識を禁じること が彼らの幸福であり、服従と忠誠(神に対しての、という意味ね)のために必要なことな のか? 」 そのように疑問をもつが、同時に次のように決意する。 「 しかし、彼らの破滅を謀るのには、これこそまさに絶好の機会だといわねばならぬ! そうだとすれば、知識への欲望を彼らの心に植えつけてやろう。 そして、もし知識を得 た暁には神々と等しく高くなることを恐れて、彼らを低きものとしておこうとの策謀から 仕組まれたあの禁令を、拒否させてやろう。彼らは神々のようになりたいという願望に燃 えて、あの樹の果実を味わい、そして死んでゆくはずだ! 」 サタンはエデンの園のイブに近づき、知識の欲望への誘惑をささやく。 「 ・・・ああ、聖なる樹の果実よ、このように摘んで食べるうまさは格別だ。これが禁 じられているのは、神々にのみ相応しいからだけでなく、人間を神々たらしめる力がある からに違いない!」 「 だが、人間が神々になってなぜ悪いのか!・・・美しいイーブよ!お前も一緒に食べ るがよい。今以上に幸福な者にはなりうる。さあこれを味わうのだ、そしてこれからは、 みずから女神となって、神々の仲間入りをするのだ」・・・ うーむ、サタン、悪いやつ! これが人間の不幸の始まりだというのか?! しかも、サタンと神との戦いの描写は、『科学技術』を手に入れた人間の振る舞いを予言 しているとしか思えない・・・ あまりにリアル過ぎてクラクラするのである。 ジョン・ミルトン!PARADISE LOST ! さあ、後半だ!ドキドキ。いずれまたこの続きはここに書いておこう。 /『光あれ!』と神が言われた。するとたちまち天来の光が、混沌の中から躍り出て、輝 く雲に包まれて暗い大気を横切って旅を始めた・・・神は光を見て、これを善しとし給う た・・・(下巻より引用)/ 写真は荒川土手の夕焼け (^^; 知識が不幸の始まりなら俺はあんまり不幸でない筈だが・・・ 2018年 9月