他人とは浅い付き合いだから 




少し古い雑誌の中で、谷川俊太郎さんへのインタビュー記事を読んだ。



  

   「考える人」2016年 夏号 



谷川俊太郎さんはインタビューの中で、


「他人とは浅い付き合いだから、相手を肯定できるんです」


と仰っている。

「自分と同じだ」と思い、失礼ながら親近感を覚えた。



サラリーマンを辞めた時「これからはできる限り他人とは利害関係を薄くしていこう」と思っ

た。だから、仕事の時間の大半がひとりで車を転がす運送屋、という仕事が大変に都合が良く、

気分のイイ人生を得た、と感じた。


その仕事をしながら指圧と出会い、やがてふたつの仕事を掛け持ちでやりながら様々な縁があ

り、この仕事が自分の落ち着く場所になったように思う。

この仕事を始めてからじきに分かった事の一つは、指圧は「短かい時間の中で他人と付き合

う」という意味では、運送の仕事と同じように、人と「浅い付き合い」の仕事なのだが、時に

その短い時間の中で、その人生に触れる事がある、という事で、これまで沢山の作り物でない

人生に触れさせていただいた。


仕事を重ねて、「人の体というものほど大切なものはなく、その身体に触れるということは、

特別な行為なのだ」と思うようになった。そしてその行為が時に人の「心をオープン」にして、

その事で短い時間の中で信頼関係のようなものが生じるのだと。


逆に言えば、心を開いてもらえるような仕事をしなければいけない、という事なのだと思って

いる。




人の人生ほど面白いものはない。

本の中にある人生にも感動する事は度々あるけれども、『作り物でないオンリーワンの事実の

物語』に、短時間の浅い付き合いだけれども人の人生の深い所に触れて、感心したり、驚いた

り、感動して「手が止まる」事が時々ある。



いつも言うのだが、「ありがとう」と言ってもらいつつお金をくれる、こちらも「ありがとう

ございます」と言ってお金をいただく。

そんな、「ありがとうが行き交う」仕事が、自分を健全でいられるようにしてくれる。



先日人から「自分が誠実である限りは、ほぼ間違いなく他人と良い関係を作ることが出来る」

と言ったら「自分が誠実でありさえすれば良い関係を築ける、といえる仕事は中々ないね」と

言ってもらった。

なんて面白くて有難い仕事なのだろうかと。




谷川さんは、「他人とは浅い付き合いだから、相手を肯定できるんです」に続いて、

「唯一の例外が結婚。あそこまで深く付き合うと、やっぱり自分の欠点がぼろぼろ出てくる、

という感じですね」

と仰っている。 

やっぱり同感。(^_-)



  

   炎天下、涼しい桜並木の下でちょっと本読み(荒川堤防・赤羽付近)


                                                          2020年 8月




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