ウーバーイーツの若者と会った 





ウーバーイーツの若者と会った


先日、歯の定期検診に行った。少し早めに家を出たので予約時間に少し間があった。いつもな

ら歯医者さんの待合室で待っても良いのだが、コロナの状況では狭い待合室に不必要に座って

いるのも迷惑になるから、近くの小さな公園のベンチに座り、時間調整をしていた。

自分が座ってすぐにウーバーイーツの仕事をしている若者が自転車を押してきて隣のベンチに

腰をおろした。

流行りのウーバーイーツで出前を頼んだ事はないが、その仕事の実際はどうなのか興味を持っ

ていたから声をかけてみた。

「仕事は忙しく入るのですか?」と聞くと、「自分はひと仕事が終わると、いつもこの公園で

待機するのですが、5分おきくらいに仕事が入ります」と言う。「随分忙しく仕事があるんです

ね」と言うと、「他にやりたい事があるが、コロナの影響でそれが叶わないから今はウーバー

イーツの仕事で稼ぎながら時期をみています」と話してくれた。「雨の時なんかは大変でしょ

うね?」と聞くと「自分は雨の日はこの仕事はしません」と教えてくれた。雨の中で住所を探

し歩いて自転車で移動するのは危険を伴うので雨の降る日は休む、という。

「事故をおこさないよう気をつけて仕事して下さい」と伝えて別れた。

気持ちの良い青年とのちょっと楽しい時間を過ごした。





権力を持つ者の責任


その青年と話しをして、ウーバーイーツに関して思い出した事がある。以前指圧の出張でお邪

魔したお宅でこんな事があった。

指圧が終わって、ビールをご馳走していただいた。飲みながらその方とテレビでニュースを見

た。

ウーバーイーツの配達員さんが事故をおこして、それに伴う保証をウーバーイーツ本社に求め

ている。というニュースだった。

そのニュースを見ながら思わず「自分の都合のよい働き方を求め、リスクは承知でその生き方

を選んだのだとしたら、都合が悪くなったらその保証を求める、というのはどうなのかな」と

つぶやいた。それは、リスクを承知で組織に依存せず自営業者として自分も生きている、とい

う思いから出たつぶやきだった。

その自分のつぶやきを聞いて、それまで自分の指圧を受けてくださったその方が、次のように

話してくれた。

「大きな権力を持つ者は一定の義務を持っていると思います。木村さんとは違って、この人は

ウーバーイーツという大きな企業の仕事を請け負って仕事をしていますから、より大きな権力

を持つウーバーイーツは配達員の方に対してある一定の義務が生じていると思いますね」と話

してくれた。

ナルホドと思った。



大きな権力を持って個人に影響力を持つものが、リスクを個人に負わせその利益だけを得る、

という事なら社会はどうなってしまうだろう?

「リスクを引き受けなければ、気分良く生きられない」という自分の強い思い込みの考え方を

適応すれば、より大きな権力は個人にリスクを押し付けて、自分は安全な所にいてリスク無し

に利益を上げる事になってしまう。

全て責任を個人に帰すならば社会はどうなってしまうだろう?(現にこうなっている、という

声が聞こえるような気がする)




いつも思うのだが、自分の人生(考えや価値観)から『外に出る』事は本当に難しい。

ウーバーイーツのニュースを一緒に見ていた方の一言がなかったら、自分の考えの窓が少しだ

け広がる事はなかった筈だと思うのである。






  

 今日も街を駆けているのだろうか、彼の「やりたい事」が何だったのか、それを聞きそびれ

 たけれども、早晩その時期が彼に訪れますように
                                2020年 10月




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