【 う そ つ き 】 




 電車の中で女の子が友達と「あの子は嘘つきだからイヤだ」と話をしていた。それを聞いてい

て、唐突に昔の記憶が引っ張り出された。



息子が幼稚園の頃、外から帰ってきて思い詰めたような顔をして僕にこう言った「とうちゃん、

嘘をついたらいけないんでしょ?」と言う、何があったのか分からなかったけれども、僕は彼を

見つめて「とうちゃんは生まれてから一度も嘘をついたことなんかないよ」とニヤっと笑いなが

ら彼を見つめて言った。

しばらく僕の顔を見ていた彼は「あっ、うそだ!、うそつき!、うそつき!」と言いながら僕の

胸をちっちゃな拳でトントン何度も叩いた。

「今でもウソついちゃう時があるんだよ」と付け加えた。

彼はなんだかとっても嬉しそうだった。





聞かない方が良いような気がして聞かなかったけれども、あの時、彼に何があったのだろう?

今、大人になった彼に聞いてもきっと何も覚えていないに違いない。


ずっと気になっている。

                              2021 年  6 月







        

        そろそろ梅雨も明けてコロナ二度目の夏が、




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