時間のスピード
2005年   5月
指圧師 木 村  浩


時間のスピード 


 このごろ時間の流れ方がものすごく速い。どうやら年齢を重ねる程に、時の経つス

ピードを、若いときと比べてあきらかに早く感じています。何故なんだろう? 一週間、

一ヶ月、一年がものすごく速く過ぎ去っていく・・・

どうやらそういった感覚は僕だけが感じているわけではなさそうです。70歳を少しこ

えたKさんは指圧を受けながら、「ああ、正月がこのあいだ終わったばかりなのにもう

桜が散ってしまったなあ」とつぶやきました。すかさず僕は人生の大先輩であるKさん

に質問しました。

「実はぼくも最近時間の経つのをすごく速く感じています。何故、年を重ねると時間が

早く過ぎ去るような気がするんでしょうか?」するとKさんは「人生の後半に入ると、

下り坂になって時間の経つのが速くなるんだろうなあ」と教えてくれました。それを聞

いた瞬間、妙に納得したのです。



 山登りを考えたとき、同じルートを往復すると登りは1時間だとすれば、下りは45

分だったりします。登山地図を見ても大抵の場合、下りは登りよりも短い時間が書いて

あります。同じ距離でも登りはキツクて時間がかかるが、下りは短い時間で歩くことが

できます。そう考えた時に、そーか、人生の下り坂である後半は同じ距離(時間)でも、

登りよりも短くてラクに感じるように神様がセットしてくれたのではないか?そんな事

を思って妙に納得してしまいました。

科学的には、加齢に伴って体の代謝スピードが変化するからその影響で体内時計の感覚

も変わる・・・とかなんとかいう説明があったりするのかもしれません。



 僕は40歳を過ぎて、運送の仕事をしながら指圧学校に通いました。その3年間は時

間の経過をとてもゆっくり感じていました。子供の頃のようなゆっくりした時間感覚で、

1年を倍の2年くらいの長さに感じていました。何故そのようなゆっくりした時間の流

れを感じていたのか?

 運送の仕事は道路の渋滞次第で終了時間は極めて不明瞭、授業開始の午後六時に間に

合うように学校に通う事は非常に強いストレスを感じながらの3年間でした。学校近辺

の道路に違法駐車なんてことはたびたびの事でした。最初は3年もの長い期間、本当に

やり抜く事ができるのかと不安でした。はやく3年間が過ぎないか・・・その思いゆえ

に時間の流れ方がとても遅く感じていたのかもしれません。しかし一方で、40歳を過

ぎて好きな事を学ぶ、ということに非常な充実感をも感じていました。キツイ日々では

あるけれども、学ぶという事の新鮮な喜びを毎日、毎日感じていたことも事実です。

「学ぶという事はなんて幸せなことだろう!」、それを生まれて初めて理解した3年間

でもありました。卒業の際は、やり終えた日を迎えた事の喜びよりも、この充実した生

活が終わってしまう事の寂しさを強く感じました。


 人生の折り返しを迎えてから再び始めた学生生活は、日々の新鮮な喜びと楽しみが、

そしてそれに比べれば小さな悩みと苦しみが、小学生だった頃のようなゆっくりとした

時間の流れを感じさせてくれたのかもしれません。

                            2005年  5月

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