知らない人生を知る、ということ
2008年 5月
指圧師 木 村 浩
やっぱり指圧は素晴らしい
指圧の仕事を通して、心と体は一体のものだなあ、とたびたび思うのです。
指圧は筋肉や関節に働きかけ、さらに循環をうながす物理療法だけれども、その物理
作用が心にも作用して、指圧を受ける人の気持ちが開いていくのをたびたび経験しま
す。
運送業をしながら夜学で指圧を学びだしたころ、ある先生が「指圧は基本的には気
持ちのいいものである」、と言われたことが忘れられません。
運送業を始めた頃は「これからは気分のイイ人生を求めていく」という気持ちが強く
ありました。人間関係をうまくもてない自分を感じていたので、「気分のイイ」人生
を送るには他人との利害関係をできるだけ希薄にする必要がある、と思い込んでいま
した。(そういう気持ちは今現在でも自分の中にあるのです)
しかし、同時に(矛盾するようですが)自分以外の人との充実した関係をもちたい、
という思いも強くもっていました。ですから、体を「手当て」する事が、同時に「気
持ちの良い」ものでなくてはいけない。という教えに出会った時に、「指圧は他人
(ひと)との関係を気持ちのよいものにするものである」というように自分勝手に解
釈したのです。そしてその時、自分の新しい人生の扉が開かれたと強く感じました。
最初に書いたように、人の体を全体として捉える指圧の価値と役割は、物理療法と
してたぐいまれなる技術です。それは単なる物理作用としての効果にとどまらず、
それが「気持ちの良い」ものであるなら、さらに、心と体は一体であるなら、指圧が
人の心を開いていく事は否定できないことです。
そのためなのでしょう。指圧を受けながら自分の人生を語る人にたびたび出会います。
指圧を何度も受けにきていただくうちに、その人の人生を詳細に知ることもあります。
ゆったりとした指圧の時間の中で、体と心がオープンになっていく・・・心理学でも
なく、宗教でもない指圧というものが、人の気持ちを開かせる力を持っている。
こんなことが起こり得る仕事はめったにないのではないか? やっぱり指圧は凄いな
あ、と思ってしまうのです。
知らない人生を知る、ということ
教師をしていて後に作家になった灰谷健次郎さんは読書について次のように書いて
います
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あなたの知らないところに
いろいろな人生がある
あなたの人生が
かけがえのないように
あなたの知らない人生も
また、かけがえがない
人を愛するということは
知らない人生を
知るということだ
これは、わたしが読書生活で得た貴重な実感である…他人(ひと)の人生を知るとい
うことと、他人(ひと)の考えを知るということは、人が人になるために、絶対的に
必要なこととしてあるのだろう。
もちろん、それは読書以外でも身につけることはできるが、その量と、こまやかさや
深さにおいて、読書にかなうものはない…
灰谷健次郎、「やさしい時間」(角川文庫)
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カミサンは大変な読書家、僕はカミサンほどには本を読まないけれども、指圧師に
なってから知らない人生を知る機会が多くなった。
本はそんなに読まないけれど、人を愛する、ことが少しはできるようになったろう
か?
2008年 5月
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