オートバイでの旅のこと 



 北海道の夏の終りはもう寒い

夏の気分でオートバイを走らせていた僕は思わぬ寒さにふるえていた。

その寒さに加えて、降りだした雨に負けて、

オートバイを海岸通り沿いのドライブインに停めた。

ずぶ濡れの合羽を軒先に置き、店の中に入るとストーブを見つけた。

北海道では真夏でもストーブは部屋の真ん中にでんと置いてある。

そのワケがその時わかった。

まだ九月にも入ってもいないというのに、店の真ん中に置かれたストーブには火が入って、

ひとけのない店内を暖めていた。

壁に立てかけてあったパイプ椅子をストーブの前に開いて座り体を温めていると、

店の奥から出てきた親父さんに話しかけられた。

親父さんはそのドライブインの経営者でイカの加工所をやっているという。

僕はその親父さんに気に入られたようだった。

「店のレジ打ちをしているあの子は高校生で俺の娘だ」という。

そして、「お前はこっちに移ってあの俺の娘と一緒になって俺の跡を継げ」と言った。

「朝が早いけど、稼げる、なかなかいい商売だ」と話してくれた。

もしかしたら、今頃、僕は北海道でイカと格闘していたかもしれなかった。

十九の夏の終り、北海道ツーリングの想い出のこと。



  ---------------------------------------------------------------------------



 オートバイでの旅をツーリングという

若かった僕はいつも一人でよくツーリングをした

一人でするツーリングをソロツーリングという

ソロツーリングで日本はあらかた走った

旅の明確な目的はいつもなく、ただひたすらオートバイで遠くの場所を一人で走った

旅好きの若者が利用するユースホステルという安宿に泊まったり、

屋根つきのバス停やフェリー乗り場の待合室、夜中の駅のベンチで寝袋にもぐりこんで寝た


 オートバイでのひとり旅はサミシくて、誰かと会いたい、という気持ちをツーリングのあい

だじゅう感じて走った

ひとりの寂しさゆえに、誰かと出会うことをいつも期待していた

オートバイが好きだったし、一人旅の魅力にとりつかれていつもソロツーリングをした

人気のなくなった駅の待合室で一人旅同士が一緒に一晩過ごしたり、知らない人の家に泊め

てもらったり、旅の女の子と出会って別れがたい気持ちをもった事もある

それは寂しさゆえの出会いだったのだろう

その寂しさに耐えられる若さもあったのかもしれない

一人になりたい、という願望もあった


 ある冬の終わりから春にむかう季節に四国をソロツーリングをしていた時に、突然、今ま

でに無いほどのサミシサを感じた。

いつものように見知らぬ町を走り抜けながら、何故か、「この町や、この町の人達に再び出

会うことは一生ないだろな」ということを思ったときに、「一人きりではいられない」とい

う感情が自分の胸の中いっぱいに広がった

その感情がどこからきたのかはわからないけれども、その時、ヒトリポッチの寂しさには自

分はとても耐えられない。 という気持ちを強く感じた

四国から帰ってきてからも何度かソロツーリングにいったけれども、その気持ちは消えなか

った。

たぶん、今も自分の気持ちのなかに大きくある




 今、オヤジになった僕はオートバイを持っていない

持っていたとして、今、一人でツーリングに行けるだろうか

一人旅のサミシサに耐えられるだろうか

「一人きり、ということを望む若さ」がなくなったのは確かだろうと







「・・・幸福ってやつはきっと傍にある 自転車こいでゆけるところに・・・」

    〜 新しい人へ | 海援隊 作詞:武田鉄矢  作曲:千葉和臣 〜 より



          ありがたいことに、自転車はもっている    2010年 2月


目次にもどる